文系PhDの日常

実学から遠い文系;博士号ほしい;海外留学中

ノーベル賞授賞式「科学へ投資を、ギャンブルだけど」に寄せて、院生の考えるお金と研究の話

 

自転車のサドルが凍る寒国よりこんにちは、はたえるどです。

ノーベル医学生理学賞の授賞式がありましたね!京都大学本庶佑特別教授が受賞されたとのこと、おめでとうございます。

www.asahi.com

ニュースにもなっていましたが、ご自身の携わったガン研究のさらなる発展のためには「科学への多額の投資が必要、ただしターゲットがはっきりしないためギャンブルである」と講演されたとニュースで読みました。

 

そう、確かに研究への投資はギャンブルなのです。

 

「投資」とは「お金をあげるから、何か利益を生み出してね」ということだと思います。

研究で金銭的な利益が生まれることもあるでしょうが、研究への投資では、研究成果が技術的に生活の役に立つとか、病気を治療するなどといったことが想定されていると思います。

 

私は常々、社会の利益になるというかたちで還元される研究は氷山の一角だと思っています。利益になる研究の下には、利益に直接結びつかない研究が山ほどある。(ちなみに、こういう研究を基礎研究と言います。)

つまり、研究(成果やプロジェクト)というのは、その性質に応じてこんな形に積みあがっているのではと思うのです。

 

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直接的には利益に結び付かない研究が山ほどあって、初めて利益を生み出す研究が一つ出てくるというイメージです。

 

この時、重要なのは、基礎部分が狭くなれば、当然最終的に利益に結びつく研究も少なくなるということ。

 

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ピラミッドの基礎部分(つまり基礎研究)には、最終的に利益を生む研究から見れば、無駄な研究もたくさんあります

しかし基礎部分が小さくなれば最終的な利益も小さくなりますから、商業的な利益を生んだり、目に見える形で社会に還元できる研究成果をより多く生むには、無駄を含め、なるべく裾野を広く維持しなければなりません。

 

そして裾野たるピラミッド基礎部分を維持するために必要なのは資金です。

 

資金を投入することで、研究する人の研究環境を整えることができ(実験器具や調査器具を買ったり)、研究する本人にもお給料が出ます。

 

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ここで、お金を投資する人の観点で考えてみましょう。

 

先ほど「最終的に利益を生む研究から見れば、無駄な研究もたくさんある」と言ったように、ある特定の基礎研究プロジェクトに投資したからといって、それが利益を生むかどうかは分かりません。(この点が本庶さんの言うギャンブルということだと思われる。)

 

下の絵だったら、研究プロジェクトAとBに資金を投入した場合は、直接的な利益を生むことはありません。

しかも、投資する段階では最終的にどの研究がモノになるか分からないのです!

 

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「じゃあ、研究プロジェクトAと研究プロジェクトBに投資したお金は無駄じゃないか……もっと確実に利益になるところだけに投資しよう!」

そう思って、直接的に利益を生むような研究(ピラミッドの頂上部分)だけに投資するとどうなるか。

 

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そうすると一時的にはたくさんの利益が生まれるかもしれません。

しかし、お金のなくなったピラミッド下部は段々小さくなっていきます。これにより基礎部分が次第に衰えますから、長期的に見れば、利益を生む研究も少なくなっていくはずです。

 

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なので「その研究カネにもならないし、やってる意味ある……?」と安易に基礎部分への資金投入をやめると、もしかしたら最終的には生まれるかもしれなかった利益(この絵の場合はプロジェクトC)を知らないうちに消し飛ばしてしまう可能性があります。

 

だから、直接的な利益を生むかどうかという点を度外視して、「利益につながる研究を生みだせるような豊かな研究の土壌を育むために」という心で投資することが必要でしょう。それに、投資した研究プロジェクトが直接利益を生まなかったとしても、その研究はきっと「裾野を広げる」という面で役立っています。

 

 

ものすごく簡略化した構造で説明しましたが、基礎研究(ピラミッドの基礎部分)に携わる私はこんなことを考えながら自分を慰めています。「自分の研究は直接はカネにはならないけど、日本の、そして世界の研究発展を支えてるよ!」と。

 

おカネは関係なくても、自分の研究がより優れた研究を育む豊かな土壌となるよう、一層精進したいと思います。

 

長くなりましたが、今日はこんなところで。

 

*追記*

ノーベル賞受賞者がお金のことを訴えたと聞いて私が思い出したのは、2015年10月25日に放送された山中伸弥教授(2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞)の「情熱大陸」です。

この情熱大陸の放送で衝撃的だったのは、山中先生がiPS細胞研究所の所長として資金集めに奔走されている姿でした。

頭を下げて寄付をお願いし、「何とか日本で実用化にこぎつけたい」とおっしゃる姿が、思っていた実験系の研究者のイメージ(白衣&フラスコ。安易)とは全く違ったので、今でも心に残っています。

同時に、ノーベル賞を受賞するような研究であっても、必ずしも資金が潤沢というわけではないということに気づかされました。

というか、この情熱大陸の放送は、日本の研究環境に対する山中先生の問題提起が詰まっているので研究関係者は必見です。